福岡高等裁判所 昭和61年(う)286号 判決
原審記録及び証拠物に当審における事実取調の結果を併せ検討すると,本件は,被告人が,借金がかさんで金策に窮し,以前に勤務していたスーパーマーケツトの店員を襲つて売上金を強取しようと企て,あらかじめ自動車部品のカムシヤフトを携帯して,閉店後である午後九時過ぎに右店舗を訪れ,事務室で居合わせた副店長(当時26歳)と雑談して隙を窺つていたが,同人が売場に入つていつたことから,その不意を襲つて同人を殺害し売上金を強取することを決意し,事務室から売場に通ずる通路で,事務室の明かりを消したうえ右凶器を構えて待ち伏せ,同人が売場から戻つてきたところを,その前頭部を一撃し,倒れた同人に対しその身体を更に二撃して重傷を負わせ,怖くなつて逃走したため金員強取の目的を遂げなかつたが,その結果1日半後に,収容先の病院で同人を死亡させて殺害した,という事案であり,一撃すれば十分死の結果を生じうるほどの凶器をあらかじめ準備し金銭強取の明確な目的のもとに敢行した計画的犯行であるばかりか確定的殺意に基く犯行であつて,偶然の事情から死の結果が生じたものではない典型的な強盗殺人であるといわなければならない。犯行の動機の点も,日ごろ,収入が乏しいにもかかわらず,家賃の高いマンシヨンに入居して生活し,セドリツクの新車を乗り回すなど派手な生活をして借金を重ね金策に窮するに至つたものであり,そのような状況のなかで本件犯行に及んだものであるから,同情の余地はないというべきである。更に,何ら責められるべき点はないのに若くして非業の死を遂げなければならなかつた被害者の無念の情はいうに及ばず,その遺族,殊に被害者の将来に期待をかけていた両親の悲嘆の情も甚だ深刻であり,被告人の家族の努力により700万円の賠償金が支払われているものの,交通事故等による死亡の場合と比較しても,到底これをもつて満足しうるものとは考えがたいところであつて,被害者の両親が,被告人に対し,厳しい処罰を望んでいるなど,その被害感情には極めて厳しいものがあるのも無理からぬところと思われる。加えて,被告人は,原審及び当審を通じ,単に事実を争うのではなく,強弁ともいえる主張を繰り返している点などに徴すると,重大な罪を犯したことに対する真摯な反省の情に乏しいといわざるをえず,この点がいつそう被害感情を悪化させていることも否定できない。確かに,被告人が犯行後怖くなつて,まもなく逃走している事実を否定するに足りる証拠はないというべきであるが,だからといつて,計画的かつ確定的殺意により殺害行為に及んだという事案において,その後における被告人の右のような心理や,特段金品の物色をした形跡がなく強取の点が未遂に終わつている点を,量刑上斟酌するについては,自ずと限度があるものというべきである。その他,被告人が犯行当時いまだ24歳であり,かつ,交通事件の罰金前科のほかに,前科はないことのほか,被告人の身上,経歴等諸般の事情を検討,考慮しても,無期懲役刑を酌量軽減すべきほどの情状があるとするには足りないといわなければならない。すなわち,被告人を無期懲役に処し,被告人に自己の罪責の重大さについて更に自覚を深めさせるとともに,犯した罪に対し生涯にわたる償いの日々を送らせるのは,まことにやむをえないところであり,したがつて,原判決が被告人を懲役15年に処したのは,軽きに過ぎ不当であると認められるから,原判決はこの点において破棄を免れない。検察官の論旨は理由があり,弁護人の論旨は理由がない。